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ルーブル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか-
今夏、新国立美術館で開催していた『 ルーブル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか 』に足を運んできましたので、少しお話ししたいと思います。
まず始めに、はて?肖像ってなんだろう?とふと疑問が湧いたのでWikipediaで調べてみたところ、「 特定の人間の外観を表現した絵画や写真、彫刻である。」とありました。
ここで分かるのは、肖像画をひとつとって見た場合、“ 描く人 ”“ 描かれる人 ”“ それを見る人 ”というトライアングルの構図が浮かび上がってくることです。
その時代背景や描かれる人物、肖像の使用目的などによってもトライアングルの構図が微妙に変化し、肖像を残す、「 顔 」を残すという行為には、種々様々な意味合いを持ちます。
「 顔 」というと、単純に個々の人間が持つ表面上に表れている特徴であったり、建物なども、façade(ファサード)=face(顔)という意味合いを持ったり、集団・企業などの「 顔 」という意味の人物であったり、製品であったりして、一概に「 顔 」といっても色んな捉え方があります。「 顔 」というのは、その人物や物を表す個性であると同時に、とても重要なファクターです。
このことを踏まえて『 ルーブル美術館展 肖像芸術-人は人をどう表現してきたか 』を見れば良かったな。と今更ながら感じましたが…
それはさておき、ルーブルの全8部門の中から110点が日本にはるばるやって来て、それを見る機会に恵まれたとても貴重なこの2018年。東京での開催は既に終了しておりますが、巡回展が大阪で2019年1月まで開催されていますので、まだ見られていない方は是非ご覧になっていただきたいと思います。
計110点を5部構成で見るのですが、見所は満載です。肖像芸術を通して時の権力者やその時代のブルジョワ階級の人達を表現するための、コード(表現上のルール)やモード(流行)を知ることができてとても楽しめると思います。
・古代エジプトの権力者のマスク
・ナポレオンの有名な絵画、彫像、デスマスク
・マリー=アントワネットの彫像
・アルチンボルドの「四季」連作から《 春 》《 秋 》 などなど
彫像は実際に実物を見た方がよいですが、大理石で彫られた彫像は素晴らしく、肌や衣服・装飾の質感がとてもよくわかります。仕上がりもなめらかなので、口溶けの良いおいしそうなホワイトチョコレートを彷彿させ、また違った楽しみ方もできると思います。
私が思うに、いつの時代もモード(流行)はありますが、ファッションだけに留まらず、建築ももちろんのこと、モード(流行)は刻一刻と変化して人々を魅了します。
人それぞれ流行りは違うものですが、大衆という意味合いにおいてのモード(流行)は、このご時世やはり多様化しているな。と感じます。SNSによる横への拡がり、国や人種も飛び超えたコミュニティがより存在しやすい現代。誰かにコントロールされた情報を見聞きするのではなく、自分で調べて見聞きすることができる利便性においては、ネットワークの充実ぶりに日々驚く次第です。
私は建築を生業としていますが、この建築業でも全く同じことが言えます。IT化が進んで仕事の効率は上がっていますが、だからこそ尚更、人手間(一手間ではなく)人の手の暖かさが感じられるような仕事をしていきたいです。
ホントに好きなもの、ホントに良いと思うものを、“ 自分 ”で選択することができる今、自分で本物(その人の思う)を見極める能力が試されているのではないでしょうか?
携帯電話のまだない時代から、多様化したネットワークに至る今この現代まで見てきて思うことは、とてもおもしろい時代に生きている。ということです。
先程述べた肖像芸術における、トライアングルの構図とも似ているのではないか?三者三様、立場や見方によって意図や捉え方も変わるおもしろさと怖さがありますね。
言葉に出さないと伝わらないけど、自分が思ったとおりに捉えてくれるとも限らない…とか、黙っていてもわかるだろう。いやいや全然わかりませんよ!とか、日常でも顔を付き合わせていてもそんなことは起こることを思えば、IT現代世界は、発信することの重要性と受取側の感性に左右がちなコミュニティへの対応をどううまくやるのか?ここがおもしろくも、顔を付き合わせない相手とのコミュニケーション能力が問われる時代だということですね。顔色を窺えないわけですから尚更です。
ここで話を戻しますが、肖像芸術には表現される人物の明確な意図があっての製作なのではないか?と私は思います。建築においても言えることですが。建築に限って言えば、それを使用する人のために考えることが第一目的であるので、芸術とはまた違った意図が必要になります。また建築分野には、使用目的とそこを利用する人の生命も守らなくてはなりません。そのことを踏まえて、建築に携わるものとしての責任を果たしていきたいと思います。